スポーツアジェンダ

野球が嫌いで好きな理由。

プロ野球中継が嫌いだった。

子供の頃は毎晩の様にテレビでナイター中継を見ている家だった。
昭和の家庭はどこもそうだったと思うが、我が家も家族それぞれ贔屓のチームがあり、ながら見ではなくかなり熱のこもった視聴者軍団であった。
ただし、私以外が、である。
流行りのアニメ、ドラマ、ほとんど見させてもらえずに育った。
またテレビの前で兄達が勝敗について熱くなり喧嘩するのも嫌で、私はテレビの野球中継が大嫌いでうざいと思っていた。

社会人一年目の衝撃。

それは高卒で就職し社会人一年目の出来事。
市外への上司の営業に同行し、帰りは20時を回っていた。
当時40代位の男性上司は車でラジオのナイター中継を聞きながら運転していた。
助手席の私も何とはなしに聞いていた。あるベテラン選手が痺れる場面でホームランを打った。


「おっ」上司が言った。
続いて私が「ここで打つとは」と呟いた。
「え?」
「この選手、先週も打ってましたよね。」
「え?野球見るの?」
上司が驚いた。


今の様に「野球女子」などというカテゴリーが無かった頃である。
10代の新米OLと急に話題が噛み合ったのに驚いた様だった。
が、私の方が驚いた。



刷り込まれた野球知識。

「しかも◯◯なんてベテラン選手、代打でたまに出てくる位なのに良く知っているね」
尚も上司は驚いていたが「えっ知らない人いるんですか」と私の方が驚いた。
私には常識だったのである。
それから「あの時のあの試合は」
「あのピッチャーは今年はダメですね」
など野球談義に花が咲き、私は自分に刷り込まれた知識に驚いたのと同時に大人と話せる話題がある事がとても嬉しかった。


当時私は既に自立してひとり暮らしだったのだが、もちろんナイターなど見ない。
好きな番組が自由に見られるのだから。
だが無意識に夜はプロ野球ニュースを見てから就寝し、翌朝は新聞でゲーム差の確認をしていたのである。
そうやって育ったのでそれが普通だったのだ。

今、野球が好きかと言われたら。

それから転職や結婚、出産と人生を歩む中でたくさんの人と出会い、必ずどこかで野球ファンと出会い意気投合しては盛り上がったりもした。
知識では誰にも負けなかった。
ナイターを見る事もあるし、球場に観戦しに行く事もある。
球場では黄色い応援をして楽しむのではなく「だからさっきピッチャー交代しとけば良かったのに」などブツブツ言いながら観る派で友人には「ガチすぎる」と笑われるのだが。


だが面倒なんである。
観るのも、勝敗をチェックするのも、ウンザリするのだ。
これは「クセ」であり、観ないと落ち着かないだけなんである。


「球場行って来たんだって?オマエ、野球嫌いじゃなかった?」とたまに会う兄達に言われると、「嫌いだよ」と今でも私は答えるのだ。
実は贔屓のチームがあり、遠征までしてホームゲームを観に行った事はナイショである。