ケイン
プロレスと政治家の結び
まず、本題に入る前にプロレスラーと政治家の関係について語ってみたい。日本ではよくプロレスラーから政治家になるパターンが多くみられる。
かつて文部科学大臣を務めた馳浩、衆議院にデビューしたはいいものの轟沈した大仁田厚、マスクをかぶったまま政治家になったグレートサスケなど。
しかし、この傾向はアメリカでも多くある。
まずジェシー・ベンチュラがそうだ。
1999年にミネソタ州で州知事を務めたベンチュラはもともとWWFで活躍するプロレスラーだった。
ベンチュラと言えば役者としても有名で数多くのシュワルツェネッガーの映画に多く出演していた。
次にマット・モーガンです。
モーガンは身長210㎝体重140㎏近くある大巨漢で怪力とパワー、そして恐竜のような巨体を震わせるモンスターヒールとしてTNAやインディー団体を中心に活躍していた。
そんな彼も2017年〜2019年のまでのあいだにフロリダ州のロングウッドという町で市長を務めていた。
話が長くなったが、プロレスというのはそれほど政治と密接なものなのだ。
また歴史を紐解けばあのリンカーン大統領はプロレスという文化が定着する以前のサーカス・レスリングのレスラーであったことが有名である。
プロレスと政治というのはそこまで関係が深いのだ。
そんな彼らの仲間入りを果たしたある男を紹介したい。
その男の名前はケイン。
彼も身長210㎝ほどある巨漢であった。
知的な怪物
ケインことグレン・ジェイコブスは1967年スペインに駐留していたアメリカ軍人の家で生まれた。その後家族がアメリカに帰ったことから彼も同じく、アメリカに戻った。
やがて成長した彼はバスケットボールでその才覚を見出した。
だが、スポーツだけではなく勉学の才能もあったジェイコブスはミズーリ大学で英文学の博士号をとり卒業した。
まさに文武両道のモンスターだったのだ。
やがて、ジェイコブスはミズーリのプロレス団体に入団した。
彼の才能はプロレスでこそいかすべきだったのだ。
彼が師事を受けた道場はマレンコ道場で、このマレンコ一族は日本のプロレス関係者とも仲が良かった。
そこで彼は日本の藤原喜明が開いた藤原組にも入団することになった。
体格が大きく運動神経の高いグレンはいわゆる『ガチ』でも強い藤原喜明ですらも苦戦するほどの実力者であったのだ。
やがてその才能はとある団体に目をかけられる。
世界最高の団体であった「WWF」だ。
ケインの始まり
WWFに入団した彼を待ち受けたのは恥辱のようなキャラクターだった。まずやらされたのはライバル団体WCWにいったケビン・ナッシュことディーゼルの偽物だった。
次にさせられたのは殺人歯科医という冗談のようなキャラクターのアイザック・ヤンカムだった。
こんな冗談のようなキャラクターでもグレンは黙々と受け止め演じた。
この謙虚な性格が彼を政治家にしたと考えてもおかしくはないだろう。
そして、グレンはある日大ヒットをすることとなる。
そう、ここでとうとう生まれるのだ。
「ケイン」が。
1997年、運命の時がきた。
当時WWFのメイン選手だったアンダーテイカーとショーン・マイケルズの試合の最中、赤い仮面に身を付けた怪物が乱入しテイカーを沈めた。
この怪物こそケインでありグレン・ジェイコブズだったのだ。
アンダーテイカーは208㎝ほどある巨漢だったが、ケインはそれ以上に大きかった。
ここでケインとテイカーの長い抗争が始まり、多くのファンから今でも語り草になっている。
政治家ケインの誕生
そんな彼は20年以上にわたり、WWEにいた。時に善玉、時に悪玉、ある時は自分より大きな選手のかませ犬にもなった。
常に損をする立場にいる彼。
だが、ファンはそんな彼に敬意を抱いていた。
傲慢な人間やエゴイストの多いプロレス業界でもケインはあらゆる関係者に愛された。
彼はわかっていたのだ。
プロレスはビジネスであると。
ビジネスである以上、上からの命令は黙って受け入れるものだと。
人嫌いの激しいWWE総帥のビンス・マクマホンもケインのことは信頼をしていた。
ある日、そんな彼に転機がくる。
2016年下馬評を破り、ドナルド・トランプが大統領となった。
トランプの選挙資金を提供していたマクマホン家はトランプの寵愛を受けていた。
そんな中、政治番組に以前から出演していたケインはトランプなどの支援を受けて政治家としてデビューしないかと誘われるようになったのだ。
そして、2019年テネシー州にあるノックス郡の市長選挙に見事当選した彼は見事当選した。
謙虚で低姿勢な性格をしたケインに多くの人間が好感をよせていたのも当選した理由の一つだろう。
他のレスラーと違いエゴをむき出しにはしない、他人と協調して寄り添いあうそんな彼は政治家に向いているだろう。
一介のレスラーから政治家になった、アメリカンドリームという言葉はケインにこそふさわしいといえる。